魔術専門の書店Treadwell’sへ

魔法の国イギリス。その首都であるロンドンには、オカルト専門書に特化した本屋が複数存在する。スピリチュアルをメインとし幅広い分野を取りそろえるWatkins、ウイッカ(現代の魔女宗教)の創始者と言われるジェラルド・ガードナーが定期的に魔女の集会を開いていたAtlantis Books、そして学術書が豊富なTreadwell’sだ。民間伝承や中世の魔術の歴史に興味を持つ私は、ロンドンを訪れるたび、このTreadwell’sに立ち寄るのが恒例になっている。

コヴェントガーデンから歩き、フリーメーソンホールや大英博物館を通っていくと、その書店はスーパーやカフェに並びひっそりと佇んでいる。フリーメーソンの集会の日の夕方には、この周辺のカフェに会員と思しき黒のスーツに身を包んだ紳士たちが現われると言う。会員の目印は、儀式で使用する杖が入っているらしい黒い鞄だとか。 そんなスピリチュアルなムードが漂う地域に、この本屋のショーウィンドウは怪しさを際立たせている。外から薄暗い店内の様子はうかがいづらく、何度訪れても戸を開く瞬間は少し躊躇してしまう。

店に入ると、薄暗い中で古い本の匂いと魅惑的なハーブの香りに包まれ、どこか異世界に迷いこんだような感覚になる。『ハリー・ポッター』の世界もひょっとしたら存在し得るかもとさえ思えてきそうだ。店内は壁沿いに天井まで本が整然とカテゴリー別に並べられており、ソファや犬もいたりして意外にも落ち着く雰囲気だ。

フォークロア、古代魔術、ケルト、錬金術、宗教、近代魔術(黄金の夜明け団、セレマ、カバラ、その他異教など)、アジアやアフリカの信仰、など見渡す限り、どれも興味を惹く本のタイトルばかりで、購入するものを絞り込むのに何時間あっても足りなさそうだ。どこの本屋でも見かける古典英文学は奥の棚に窮屈そうに押し込まれ、大部分が魔術やオカルトの珍しい本ばかり。中には相当古そうなレア本まで陳列されている。店内の一番奥のコーナーには実践魔術の道具として、キャンドルや、鍋、水晶、ハーブ、アロマオイル、タロットカードなども販売されていた。現代にも魔女裁判の制度が残存していたら、この本屋は真っ先に検挙されていたに違いない。

この店を訪ねる時点で何かしら求めてきていると分かっているからか、店員は良い意味で前のめりに接客してこようとしない。大体は馴染みの客とお喋りしているか、パソコンを覗いているので、こちらも焦ることなく自分のペースで本を探すことができる。

店の奥に地下へ続く階段があり、下りてみたことがあるが、地下には雑然と並べられた中古本の山と、タロット占い用の小部屋がある。ただ、大抵は相談者のすすり泣く声や占い師の深刻な話が漏れ聞こえてきて、盗み聞きしているような気分で罰が悪くなって、そそくさと上階に戻るのが常だ。

妖精と魔術に関する本はすべて買い占めたいところだが、興奮をおさえ吟味する。私の場合、魔術の知識はアマチュアなので、初級の本から少しずつ揃えている。初訪問の際は、魔術の歴史、基礎知識、実践魔術の本をバランスよく選び、そして妖精に関してはイングランドに特化したものを選択した。プロフェッショナル向けの本が多い中、初級ばかりを購入したので少し恥ずかしくも思ったが、キャッシャーに持って行くと、店員の若い女性は気さくに話し掛けてくれ、初回ならこれで完璧だと褒めてくれたので、正しい選択ができたと自信が持てた。ちなみに、この本屋で本を購入すると毎度オリジナルの栞をくれるのも楽しみの一つになっている。

2003年にオープンしたこの本屋はオカルト専門書店としてはロンドンで最も新しく、オーナーはアメリカ人女性のクリスティーナ・オークリー・ハリントン氏だ。彼女自身も魔術の知識に長けているが、他の店員も人類学の学生だったり、本物の魔女だったりするので、探している本の内容などを相談すればみんな親身になってアドバイスしてくれる。

最近は気軽に外出できない状況なので、今年中に訪れることはなかなか難しそうだが、Treadwell’sのホームページでは、オンラインショップやオンライン講座、オンラインタロット占い、オーナーが直々に教えてくれる実践魔術の動画まで、オンラインコンテンツが充実している。自宅で過ごす時間が増えるこの頃。時空を超えて、異世界(Otherworld)に足を踏み入れてみるのはいかがだろう。

https://www.treadwells-london.com/

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