妖精の写真で一躍有名になった二人の少女、エルジーとフランシス。彼女たちが暮らし、妖精を撮影した現場となった住居が現存するという情報を得て、その周辺を探索した。
「妖精の家」の現在は
目当ての家を見つけるのはそこまで難しくなかった。この家は、元々エルジーの家族が所有していた。 南アフリカで暮らしていたエルジーの伯母とその娘のフランシスも、夫(フランシスの父親)が戦地に出向いている間に、エルジーたちとここで一緒に暮らしていたという。 100年の歳月を経て、この家は他の所有者にわたり、今も別の人が住んでいるらしい。古い家の方が良いと思われているイギリスでは、これくらいの築年数であればまだまだ現役が当たり前だ。
少女たちが妖精を撮影した小川へ辿り着くには、家の中を抜けていく以外の方法がなく、通りからは見られない。個人の家なのであまりジロジロと中を覗くわけにもいかず、しばらく周辺をうろつき、諦めて帰路につこうとした時だった。偶然にも家の中から若い女性が現れ、同じように家の様子を覗こうとしていた別の観光客に声をかけており、ついでに傍にいた私にも目配せをしてくれた。「コティングリー妖精事件に興味があってこの辺りを散策している」と話すと、親切にも妖精写真の撮影された小川へ案内してくれると言ってくれた。なんと幸運な巡り合わせだろう。
現在この家に住んでいるのは、アニメーターの男性と一般企業で働く女性の若いカップル。二人は、この家が「コティングリー妖精事件」の舞台であるということを露とも知らず、純粋に庭の先に流れる小川に魅了され購入を決めたという。引っ越してきた後に近所の人から「妖精の家を買ったのね」と教えてもらい、ようやくこの家が特別だと知ったらしい。「コティングリー妖精事件自体は知っていたけど、まさか自分たちがその家に住むことになるなんて」と驚きを隠せなかったそう。
この家の購入をきっかけに、「コティングリー妖精事件」について詳しく調べ、今では五枚の妖精写真それぞれの撮影場所や角度まで分かるようになったという二人。家の中を抜け、少女たちが妖精を見たという小川まで下りて、当時の様子を丁寧に案内してくれた。
1階のガレージを抜けると、なんとも美しく広大な庭に抜けた。見事なまでに綺麗に整えられた庭は、彼が一人で完成させたという。


庭の先には例の小川が流れている。近づいていくと、川のせせらぎの音が次第に大きくなり、太陽の光を反射してキラキラと輝く水面が目に入った。なんとも美しく神秘的である。こんなにも素晴らしい環境を独占できるならば、確かにこの家を手に入れる価値はある。
川面に降りると、流れは緩やかで水かさも浅いことが確認できた。足が濡れるのを気にしなければ、川の上流の方へどこまでも探検できそうだ。少女たちがこの川で夢中になって遊んだのも納得だ。



小川を挟んだ向かいは木々の生えた急斜面になっており、その上が前回の記事で紹介した妖精にちなんだ名前の通りがある新興住宅地だ。夏場になるとそこから子どもたちが急斜面をこっそり下ってきて、水遊びを目当てにこの小川によくお邪魔しに来るそう。いつの時代でもこの小川は子供たちを惹きつけるようだ。それももしかしたら妖精の仕業かも…?

うっそうとした木々の隙間から、今にも妖精が顔を出しそう
親切なカップルにお礼をし「妖精の家」を後にするとき、彼らがちょうど日本への旅行を計画していたと知り、二人の旅程の相談にのるために再び会うことを約束した。なんとも不思議な巡り合わせ。「妖精の家」に立ち寄れたことも、この二人と出会えたことも、やはり妖精の仕業かもしれない、と奇妙な気持ちになりながら車を出発させた。
さらに事件の真相を追及したい方へ
「コティングリー妖精事件」について学術的な研究を深めたい方には、佳子様が留学されていたというリーズ大学の、ブラザートン図書館を訪ねることをおすすめする。少女たちとエドワード・ガードナー、コナン・ドイルがやり取りする直筆の手紙や、貴重な写真まで保管されている。資料を見るには事前予約が必要。
Brotherton Library
https://library.leeds.ac.uk/locations


カメラ好きの方におすすめしたいのは、二人の少女が使用した実物のカメラを見学できるブラッドフォード市の国立メディア博物館だ。ここでは、はじめの2枚の妖精写真を撮影したカメラと、1918~1920年の妖精写真の撮影に使用されたカメラの計2台が展示されている。
National Science and Media Museum
https://www.scienceandmediamuseum.org.uk/

少女たちが始めに使用したミッジ・カメラ 次に使用されたカメオ・カメラ
手軽に事件の内容を知りたい方へ
洋書が読める方にぜひおすすめしたいのは、ヘイゼル・ゲイナー氏著のThe Cottingley Secret。「コティングリー妖精事件」の事実を基にしたフィクションだが、フランシスの視点から当時のことが描かれているので、少女たちに感情移入しながら事件の概要を知ることができる。著者は米国やアイルランドで数々の文学賞を受賞している実力派。邦訳版はまだ出ていないが(日本でも流行しそうな内容なので強く要望したい)、比較的平易な英語なので初めての洋書チャレンジとしてもおすすめだ。
日本語で手っ取り早く事件の概要を知りたい方には、『フェアリーテイル』(原題:Fairy Tale, A True Story)という題名で映画にもなっているのでこちらの鑑賞を薦めたい。ファンタジー要素が強く史実と異なる部分もあるが、当時の時代背景や「妖精の家」が見事に美しく再現されている。鑑賞後にほっこりと幸せな気分になれるので、子どもと一緒に見るのにもちょうど良さそうだ。